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大阪地方裁判所 平成5年(わ)1220号 判決

主文

被告人を懲役四年及び罰金五〇万円に処する。

未決勾留日数中一七〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある覚せい剤八袋(〈押収番号略〉)、大麻草八袋(〈押収番号略〉)及び同一九包(〈押収番号略〉)並びに大麻樹脂一包(〈押収番号略〉)、同一袋(〈押収番号略〉)及び同一個(〈押収番号略〉をいずれも没収する。

被告人から金二万円を追徴する。

理由

(犯罪事実)

第一  被告人は、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、平成四年六月一日午後五時ころ、大阪市浪速区〈番地略〉所在の○○○マンション○○○二〇七号室のA方居室において、右Aに対し、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約一〇グラムを代金八万円で譲り渡した。

第二  被告人は、みだりに、同年九月二日午後七時四〇分ころ、大阪府守口市〈番地略〉所在のモーターイン「○○○」二〇六号室において、Bに対し、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約0.8グラムを代金一万円で譲り渡した。

第三  被告人は、みだりに、営利の目的で、同月九日午前零時ころ、大阪市浪速区〈番地略〉先路上において、Cに対し、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約0.7グラムを代金一万円で譲り渡した。

第四  被告人は、法定の除外事由がないのに、同月二九日ころ、大阪市淀川区〈番地略〉所在の○○○三〇三号室の被告人方居室において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約0.05グラムを水に溶かして自己の身体に注射して使用した。

第五  被告人は、みだりに、同月三〇日午後四時一六分ころ、大阪市淀川区〈番地略〉付近路上において、塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約7.414グラム(〈押収番号略〉はいずれもその鑑定残量)及び大麻草約0.430グラム(〈押収番号略〉はその鑑定残量)を所持した。

第六  被告人は、みだりに、同日午後四時二四分ころ、第四記載の被告人方居室において、営利の目的で、大麻草約1152.678グラム(〈押収番号略〉はいずれもその鑑定残量)及び大麻樹脂約40.972グラム(〈押収番号略〉はいずれもその鑑定残量)を所持し、非営利の目的で、大麻草約10.929グラム(〈押収番号略〉はその鑑定残量)及び塩酸フェニメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約0.399グラム(〈押収番号略〉はその鑑定残量)を所持した。

第七  被告人は、みだりに、同日午後五時二五分ころ、大阪市淀川区〈番地略〉付近路上に駐車中の普通乗用自動車内において、大麻樹脂約1.321グラム(〈押収番号略〉はその鑑定残量)を所持した。

(証拠)〈省略〉

なお、被告人は、平成五年三月一五日付け訴因変更請求書記載の第二の二の事実中、営利目的で所持していたとされる大麻草のうち、〈押収番号略〉(以下「本件大麻草」という。)について、その所持が営利目的ではなかったと供述するので、この点について判断する。

被告人の公判供述及び麻薬取締官調書(〈書証番号略〉)によれば、被告人の弁解の要旨は次のとおりである。すなわち、被告人がDから入手した約一キログラムの大麻草と約二〇〇グラムの大麻草のうち、ブロック状の固まりであった約一キログラムの大麻草を小分けする際に、屑状のものが約五〇グラム生じ、これを約一〇グラムずつ五袋に分けて、自分で使用したり、見本として他人に無償で譲渡したりして、残った一袋を約二〇〇グラムの右大麻草と一緒にしていたのが本件大麻草であり、本件大麻草も、屑であるから、利益を得るためのものではなく、自分で使用したり、他人に無償で譲渡するためものであるというのである。

そして、右の各供述に、差押調書(〈書証番号略〉)及び鑑定書(〈書証番号略〉)を総合すれば、大麻の小分け状況は、被告人の供述と符合し、その保管状況も、被告人の供述するとおり、本件大麻草が約二〇〇グラムの大麻草と一緒に保管されていること、合計一キログラムを超える大麻草のうち、わずか一〇グラムの本件大麻草についてのみ、ことさら虚偽の供述をしてまでその営利目的を否定する事情が見受けられないことからすると、被告人が本件大麻草を営利目的で所持していたと認定するにはなお合理的な疑いが残るというべきである。

したがって、前判示のとおり、本件大麻草については、非営利目的で所持していたと認定した。

(累犯前科)

一  事実

1  昭和五九年一月二六日大阪地方裁判所宣告

詐欺未遂罪により懲役一年(三年間執行猶予。昭和六〇年一月一八日右猶予取消し)

昭和六二年六月二四日刑の執行終了

2  昭和五九年三月二九日京都地方裁判所宣告

覚せい剤取締法違反の罪により懲役八か月(四年間執行猶予、保護観察付き。昭和六〇年一月一八日右猶予取消し)

昭和六二年八月二四日刑の執行終了

3  平成元年八月一一日大阪地方裁判所宣告

2の刑の執行終了後に犯した恐喝未遂、覚せい剤取締法違反の各罪により懲役二年六か月

平成三年一一月二二日刑の執行終了

二  証拠〈省略〉

(法令の適用)

罰条

第一  平成三年法律第九三号附則三項により同法による改正前の覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項二号、一七条三項

第二  覚せい剤取締法四一条の二第一項

第三  覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項

第四  覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条

第五  覚せい剤所持の点 覚せい剤取締法四一条の二第一項 大麻草所持の点 大麻取締法二四条の二第一項

第六  大麻草及び大麻樹脂の営利目的所持の点 包括して大麻取締法二四条の二第二項、一項 大麻草の非営利目的所持の点 大麻取締法二四条の二第一項 覚せい剤所持の点 覚せい剤取締法四一条の二第一項

第七  大麻取締法二四条の二第一項

科刑上一罪の処理

第五の覚せい剤所持の点と大麻草所持の点について

刑法五四条一項前段、一〇条(重い覚せい剤取締法違反の罪の刑で処断)

第六の大麻草及び大麻樹脂の営利目的所持の点と大麻草の非営利目的所持の点と覚せい剤所持の点について

刑法五四条一項前段、一〇条(最も重い覚せい剤取締法違反の罪の刑で処断。ただし、罰金刑は大麻取締法違反の罪のそれによる。)

刑種の選択

第一、第三及び第六の各罪について

いずれも情状により懲役刑及び罰金刑を併科

累犯加重

第一の罪について

刑法五九条、五六条一項、五七条(前記1・3及び2・3の各前科との関係でそれぞれ三犯に当たるので刑法一四条の制限内で加重)

第二から第七までの各罪について

いずれも刑法五六条一項、五七条(前記3の前科との関係でいずれも再犯に当たるので加重。ただし、第三の罪については、刑法一四条の制限内)

併合罪の処理

懲役刑 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(刑及び犯情の最も重い第一の罪の刑に刑法一四条の制限内で法定の加重)

罰金刑 刑法四八条二項(第一、第三及び第六の各罪所定の罰金額を合算)

宣告刑 懲役四年及び罰金五〇万円

未決勾留日数の算入 刑法二一条(一七〇日を算入)

労役場留置 刑法一八条(金五〇〇〇円を一日に換算)

没収

押収してある覚せい剤七袋(〈押収番号略〉)について 覚せい剤取締法四一条の八第一項本文(第五の罪に係る覚せい剤で犯人の所有するもの)

押収してある大麻草一袋(〈押収番号略〉)について 大麻取締法二四条の五第一項(第五のうち大麻所持の罪に係る大麻で犯人の所有するもの)

押収してある覚せい剤一袋(〈押収番号略〉)について 覚せい剤取締法四一条の八第一項本文(第六のうち覚せい剤の非営利目的所持の罪に係る覚せい剤で犯人の所有するもの)

押収してある大麻草六袋(〈押収番号略〉)及び同一九包(〈押収番号略〉)並びに大麻樹脂一包(〈押収番号略〉)及び同一個(〈押収番号略〉)について 大麻取締法二四条の五第一項(いずれも第六のうち大麻の営利目的所持の罪に係る大麻で犯人の所有するもの)

押収してある大麻草一袋(〈押収番号略〉)について 大麻取締法二四条の五第一項(第六のうち大麻の非営利目的所持の罪に係る大麻で犯人の所有するもの)

押収してある大麻樹脂一袋(〈押収番号略〉)について 大麻取締法二四条の五第一項(第七の罪に係る大麻で犯人の所有するもの)

追徴

第二及び第三の各犯罪行為により被告人の得た合計金二万円について 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律一七条一項前段、一四条一項一号(全部費消により没収不能)

(量刑の理由)

本件の量刑に当たっては、次の事実を特に考慮した。

一  不利な事情

被告人は、同種前科四犯を有していながら、前刑終了後、薬物との訣別を試みたものの、わずか三か月弱で、薬物に手を出し、その後は、密売を繰り返すなど、被告人の薬物に対する親和性は極めて顕著である。覚せい剤の密売について見ると、被告人の地位は、末端使用者との間に、少なくとも二人の密売人が介在するというもので、密売ルートにおいて、比較的重要な地位を占めており、自己の利益のために、社会に与えた害悪も重大である。また、判示第六の事実に係る大麻にも見られるように、被告人の薬物の仕入れは大量であり、被告人の薬物売買による利得の意思がかなり強固であったことが窺われる。

二  有利な事情

覚せい剤については、単位グラム当たりの利益が比較的小さく、大麻にあっては、結果的に全く利益を上げていない。被告人は、薬物事犯の土壤となっていた暴力団を自ら脱退し、本件犯行についても、すべてこれを供述するに至り、反省の態度も見られる。本件による身柄拘束後、入籍した妻は、被告人の帰りを待ち、その更生を支える旨述べ、被告人の義弟も出所後の就職先を見つけてくれている。

三  以上の事情を総合考慮して、主文の刑を量定した。

(裁判長裁判官近江清勝 裁判官中谷雄二郎 裁判官幅田勝行)

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